阿多博文弁護士任官へ。大阪地裁令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件を解説!

弁護士早河弘毅令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件で原告代理人を務めた阿多博文弁護士が、今年の2月から最高裁の裁判官に任官されるというニュースがあります。



令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件は、現在でもトレントの損害賠償請求の場面では(トレントファイルを削除しているケースでは)リーディングケースであります。



重要な裁判例でありながら、きちんと取り上げる期間もこれまでありませんでしたね。



良い機会ですから一緒に見ていきましょう!



この記事をお読みいただく前に、簡略表記として以下の通りにさせていただいていることを踏まえてお読みいただくと、よりわかりやすいかと思います。
あらかじめ目を通していただくのも良いかもしれません。
令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件
👆大阪地裁の件
令和2年(ワ)1573号債務不存在確認請求事件
👆東京地裁の件
令和3年(ネ)10074号債務不存在確認請求控訴事件
👆知財高裁の件
作成日・改訂日
作成日



新年あけましておめでとうございます!



この記事は令和8年1月6日に私が裁判例を復習しながら作りました。
改訂日



今のところまだこの記事は改訂をしていません。
阿多博文弁護士、最高裁裁判官任官へ



裁判例解説がメインですが、ほんの少しだけ触れます。



阿多博文弁護士が教授・客員教授をつとめてみえた大学の先生から、次のようなメッセージが寄せられています。
本日、本研究科客員教授である阿多博文先生が、最高裁判所裁判官に任命されることが決定したとの報に接しました。心よりお祝い申し上げます。
阿多先生は、長年にわたり、弁護士として活躍されるとともに、教授・客員教授として、本研究科の商法・実務専門科目の教育に、熱意を注いできてくださいました。
最高裁判所裁判官として、先生がこれまで培われた知見と高潔な理念をもって、わが国の司法のさらなる発展に寄与されることを確信しております。
本学は、今後も法曹養成機関としての使命を果たし、先生のご活躍に続く人材を輩出すべく、教育・研究に一層邁進してまいります。2025年12月23日 同志社大学大学院司法研究科長 松本哲治
https://law-school.doshisha.ac.jp/news/4994/



教育者として商法・実務専門科目の教育に携わられていたのですね。



発信者のためになる裁判例を残してくださった人が、司法のさらなる発展に寄与されることは喜ばしいですね!



ちなみに12月23日ですと、当職の誕生日でもあります。余談ですが・・・・
結 論



まだるっこしいのは嫌なので先に要点を述べます。
- 損害の発生を「3時間分のトレント利用分」にとどめた。
- その理由は、原告がダウンロード終了後すぐにトレントファイルを消していたから。
- したがって、ダウンロード終了後もトレントファイル(や動画ファイル本体)を消していないor移動させていないケースは、射程外であると思われる(知財高裁パターンになると思われる。)。
- 原告は、一日当たりのダウンロード数が増えやすい「配信直後」の時期にトレントを触っていたので損害額が大きいと認定されやすいケースであった(この時期にピアが多いからダウンロードが増えるというだけであって、個々のピアによる損害を解明しない態度自体は疑問。)。
- 知財高裁の件は、権利者側が発売後しばらくしてからのデータで損害額を計算せざるを得ず、低額にとどまった。
- そのため、大阪地裁の件と知財高裁の件は「同じくらいの金額」「損害額は一桁万円くらい」と解釈されやすい。
- しかしながら、根本的には計算式が全く違う
- 知財高裁パターンで計算された場合、裁判例の計算式を単純に当てはめて計算するということだと、権利者側が発売直後のデータを用いることで、10万円を超えてくる可能性はある。
- まだ議論されていない分野が多く、裁判例の判断は(少なくとも今日では)不当(と思われる)な点も多い。



すみません、全然長くなってしまったうえに内容も難しくなってしまいました。



初心者向けの記事をいくつか置いておきますので、まずはそちらを読むことを強くお勧めします。



この記事の内容は、多くの人は理解している必要はないです。法律論は、専門家にお任せください。




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大前提ですが、この裁判例は、意見照会書が届いて、本当に困っている人の経済的負担が大きくなり過ぎないようにする、という観点から意義がある裁判例です。



個人的には、意見照会書が届いてもトレントの利用を続けているような人は、「故意」のある犯罪者であって、地獄に落ちればいいと思っています。



昨年、総務省から報道資料も出ておりますので、ますます、ファイル共有ソフトの問題は周知が広がっていくと思います。
この裁判例の意義
位置づけ



この令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件よりも先に、東京地裁の件と知財高裁の件があり、この2つは1審と2審の関係にあります。



この2件の先例を前提としつつも(訴状でも引用をしています。)、「3時間分の損害」のみを認めた点が、一歩進んで画期的な点であります。
始期と終期の期間に一日あたりのダウンロード数を乗じる「日割り計算アプローチ」を取りつつ、終期は「法律相談に行った日」であるとした。
被害作品名は「グラビアアイドル究極進化!1年で開発された神BODY!大痙攣イキまくり乱交解禁スペシャル! 高橋しょう子」です。リンクは以下のとおり。
原審と同じ「日割り計算アプローチ」を取りつつ、終期は「意見照会書を受領した日」としたので、原審よりも損害額は低くなった。
令和2年(ワ)1573号債務不存在確認請求事件の時点で認めていた「途中削除ケース」の計算式を実際に適用した。



令和2年(ワ)1573号債務不存在確認請求事件は、次のように述べています
端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信ができなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-90830.pdf



つまり、令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件で登場した「ファイルの削除までの3時間に限って損害の発生を認める。」という考え方そのものは、既に令和2年(ワ)1573号でも登場をしています。
知財高裁までの「日割り計算アプローチ」の危険性



平成29年9月1日発売に対し、令和元年10月1日(8936回)から令和3年5月18日(9437回)のダウンロード数の記録しか権利者側になかったのです。



596日間の間に501回ダウンロード数が増えたという日割り計算になってしまいました。



つまり、一日あたり0.84060402684回ダウンロード数が増えたと概算し



これに日数をかけて計算したわけです。



発信者も、始期は平成30年6月終期は同年9月に集中し、発売直後というわけでもなかったようです。



この話のキモは、①権利者の手元資料も限られ②発信者も発売からしばらくしてダウンロードしていた人ばかりだったので、損害額が大きくならなかったのです。



裁判例は、「どのピアからのアップロードか」ということは無視して、単純に「その日のダウンロードが何件で、2点間を比較すると何日の間に何日増えたか」という計算をしております。



アップロードの速度はダウンロードの速度に比して遅いのでありますが、この計算方法だとそれも無視をして、「発売直後の爆増期間に運悪くダウンロードした人」は大打撃を食らう可能性が出てきます。



このあたりの論点も踏まえますと、「損害額は裁判例で数万円に決まってます」というのは正しくはないです。結局は個々人の利用実態が重要であります。
いまから、もっと重要なことを言います!
残る問題点



氷山の一角ですが、まず「過失」ってこの場合認められるんでしょうか?



不法行為を「違法アップロード」に見ている以上、「違法アップロードをしていることを認識できたはずなのに不注意で認識しなかった」ことが「過失」になるはずです。



しかし、昨年発表された総務省の報道資料では、14万件のトレントの開示請求のうち、ほとんどの者が違法アップロードをしている認識はなかったと言われております。
多くの利用者は「自分はダウンロードしただけ」「アップロードしているつもりはない」などと、違法性の認識が乏しいまま利用しており、意図せず著作権を侵害してしまい、発信者情報開示請求や損害賠償請求の対象となってしまうケースが少なくありません。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000460.html



総務省が周知に動いていることからも、これまで周知が足りていなかったことは否定できないと思われます。



今後は状況も少しずつ変わっていくと思いますが、まだ周知は足りておらず、注意義務違反があったとまで言えないでしょう。



この点について知財高裁が言っていることを引用すると・・・・
仮に、一審原告X1らがこの点を認識していなかったとしても、自らがBitTorrentを利用して本件著作物を正当な権利者からダウンロードしているものではないことを当然に認識し得たことからすれば、BitTorrentを利用するに当たり違法な行為をしないよう慎重になるべきところ、雑誌やインターネットに掲載された記事などから容易にBitTorrentの仕組みを知ることができるのであるから、ダウンロードしたファイル(ピース)を送信可能化したことについて少なくとも過失があると認めるのが相当である。」
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-91113.pdf



正当な権利者からダウンロードしているわけではないことを認識できたとしても、そのことと、違法アップロードの問題に気付けたかどうかは別問題ではないでしょうか。



クライアントソフトの設定や、インターネットブラウザの検索履歴から違法アップロードの認識をうかがわせる事情や、疑うべききっかけが見つかるのであれば、故意ないし過失が認定できるケースはあるでしょう。



しかし、正当な権利者からダウンロードしていないことを気にしていたとしても、違法アップロードに気付けるわけではありません。これは全く別のお話ですから。



そして「雑誌」や「インターネット」とはどのようなものを想定しているのでしょうか。



「雑誌」はその時々の流行について言及しているわけだから、常に違法アップロードの話をしているわけではありませんよ。



「インターネット」も「違法アップロードかもしれない」と思って調べれば出てくるかもしれませんが、そもそもみんな「違法アップロードかもしれない」と思うところまでいかないから、報道資料が言うように、違法アップロードだと知らないままトレントを使っているわけですよね。スピード違反や前方不注視のような義務違反とは同視できないと思います。



若干酷というか、結果責任と言われても仕方ないのではないのでしょうか。



今後、この問題がますます周知されていくにつれ、徐々に解消されていくのかもしれませんが、今はまだ責めを負わせるべきではないと思います。



当職に問い合わせをされる方も、ほとんどは違法アップロードの認識を有しておりません。



ちなみに、意見照会書が届き、違法アップロードを認識しても続ける人は擁護する余地がありません。こういうことをやっている人が不真正連帯債務を全額弁済してその旨公表してほしいです。そうしたら弁済の抗弁使えますんで・・・・
令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件の事案
登場人物
当事者それぞれに代理人弁護士がついているという状態であります。


時系列
株式会社Exstudioが被害作品の配信を開始。
こちらのリンクから確認可能です。
原告が被害作品を違法アップロード。
株式会社Exstudioがプロバイダ(株式会社ドリームトレイン・インターネット)に開示請求を行う。
原告が発信者情報開示にかかる意見照会書を受領。
株式会社Exstudioが代理人弁護士(ITJ法律事務所)を通じ、個別和解23万円を提案。
株式会社Exstudioが代理人弁護士(ITJ法律事務所)を通じ、個別和解を24万円に増額すると通知。
原告は阿多博文弁護士を代理人に選任したうえで、債務不存在確認請求訴訟を提起。
令和4年(ワ)9660号債務不存在確認請求事件の主文と理由
主文



主文は・・・
原告の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-92334.pdf
賠償債務は3万7675円を超えては存在しないことを確認する。



この「3万」という数字は、多くの発信者の目に、当然焼き付けられております。



専門家としての立場から申し上げるなら、大切なのは、金額ももちろんですが、それよりも、そこに至るまでの理由付けではあります。



しかしながら、この種の案件では、かつては、1億6000万円以上請求されることもありました。発信者にとってはこの「3万」という数字が何よりのお守りであります。大切なことです。
「トレント事件の損害は3万円~数万円程度で固定している」とは読まないようにしましょう。
理由


















