作 成 : 愛知県弁護士会所属弁護士 早河弘毅

「トレントでは逮捕されない」ということが本当にあるのか?逮捕される可能性と逮捕事例について徹底検討

目次

逮捕事例あり!「逮捕されない」わけでは全くありません。

刑事告訴・逮捕の可能性が「ゼロ」とはまったく言えないのが現状です。

警察が実際に動き、逮捕にまで至った事例を紹介します。

音楽ファイルの違法アップロードを行ったとして、5名のトレント(μTorrent)利用者を著作権侵害で逮捕した事例。

まずはμTorrentの利用で、音楽ファイルを違法アップロードした事件での逮捕です。

一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は6月21日、大阪府警察本部サイバー犯罪対策課および大淀警察署、港警察署、高槻警察署、住之江警察署、西警察署が6月20日までに、ファイル共有ソフト「μTorrent」を使用してインターネット上に音楽ファイル等を公開していた大阪府内の男性5名を、大阪地方検察庁にそれぞれ送致したと発表した。これらは、3月7日と27日にJASRACが告訴していたもの。

「μTorrent」による著作権侵害で5名を逮捕(JASRAC) | ScanNetSecurity

なお、ご存じの方が多いと思いますが、μTorrentはBitTorrent(ビットトレント)系のP2Pソフトウェア(ファイル共有ソフトウェア)の一種であり、ビットトレントと同じくBitTorrent株式会社に所有されているクライアントソフトです。実質的には同じものとも言われます。

ワールドトリガーなどの違法アップロード

ワールドトリガーなどをトレントで無断配信した29歳の男性の事例です。

大阪府警は15日までに、人気アニメ「ワールドトリガー」の動画を、ファイル共有ソフト「ビットトレント」を使って違法に公開したとして、警察は三重県四日市市の会社員の容疑者(29/韓国籍)を著作権法違反の疑いで逮捕した。被害額は18億円を超えるとみられている。

被害18億円 人気アニメ「ワールドトリガー」など違法公開の韓国籍男性を逮捕 | 全国情報-JC-NET(ジェイシーネット) (n-seikei.jp)

三重県四日市市は、当職も離婚調停で何度も足を運んだことがあります。被害額の大きさが目につきますね。

逮捕事例ではなくて、今私が逮捕されるのかそうでないのか可能性をパーセンテージで知りたいという方へ。

「自分が逮捕される可能性は?」「可能性がゼロでないことはわかった。」「しかし、それが50%くらいあるのか、それとも5%や1%にも満たないのか?」あなたが知りたいと思っているポイントはそこではないでしょうか。

逮捕されることが実際にはほとんどない、ということであれば、示談する必要は高くないというのではないか、議論も一見あり得るように見えますが・・・

逮捕される確率が気になるのは、むしろ自然で大切なこと

 逮捕される可能性については、どうしても気になってしまうものですし、一度は考えてみても良いポイントです。

 我々日本人にとって、逮捕されることは非常に大きなリスクであると理解されています。逮捕のリスクについては別の記事で詳しく取り上げますが、逮捕されれば、報道のリスクもありますし、身柄拘束が長期化することによって失職するリスクもあります。また、逮捕されるということは事件化しているということですので、罰金刑が課され前科が付くリスクがあります。前科が付くと就職活動にも影響が出ます。気になってしまうのは当たり前のことです。

逮捕される可能性をパーセンテージで示すのは非常に困難なこと

他方で、以下の理由から、逮捕される可能性をパーセンテージで示すのは非常に困難なことであると言わざるを得ません。

報道されない逮捕事例が存在すること

まず、逮捕があると基本的に警察は記者クラブにFAXでその存在と内容を知らせています(薬物事犯など一部例外が存在するとは言われます。)。
しかしながら、それらのすべてが、新聞に載ったり、ネットニュースに載ったり、私たちのお茶の間を流れているわけではありません。
報道機関は、事件の内容や性質、被疑者の属性や社会的地位などを踏まえ、報道する社会的価値を検討し、報道するか否かを検討しているのです。

弁護士や学校の教師などの社会的地位の人間の犯罪は、比較的報道リスクは高まります。

そうすると、私たちが認識している以上の逮捕事例が存在する可能性があります。

報道されない逮捕事例については、その数を知る手段が限られていること

当たり前のことですが、逮捕された当人がこのことを積極的に発信することはありませんし、警察や担当弁護人も口外することはありません。そうすると、報道されない逮捕事例を知る手段は限られています。

パーセンテージで示すことの難しさ

以上からすると、実際の逮捕者数を数えるのは大変困難なことであり、どのくらい逮捕がなされるのか、という検討はそれ自体容易とは言えないものです。

パーセンテージで示してもらうことは難しいとして、その可能性は高いと言えるのか、低いと言えるのか。

私なりに考察してみましたが、可能性についてはいずれの議論もありうると思います。

逮捕される可能性は低い、という議論に結び付きうる要素

違法アップロードの件数の多さ

 違法アップロードの数は、ツールを使って確認したり、また、この仕事をしていると申立書別紙の目録を見ることによって、個々の作品がいかに多数の著作権侵害にさらされているかを直接目にすることになります(といっても、もちろん後者については、損害額が大きい作品に絞って申立てをしているのですが。)。
 そうすると、一件一件告訴をすることが現実的であるのかという議論があります。告訴には後述のハードルもあります。

告訴を受け付けてもらうのは一般的には労力がかかる

この記事は逮捕の可能性について言及する記事ですので、詳細は割愛しますが、告訴を受け付けてもらうためには一般的には労力やコストがかかります。

民事との要件の違い

著作権法119条1項は過失犯を処罰する規定がありません。罪刑法定主義といって、過失犯を処罰する規定がなければ過失犯を処罰することができません。

確認できる逮捕例や報道そのものが、現在多数あるというわけでは少なくともない

盗撮などでは日常的に報道を目にするのに対し、トレントはそうではない、ということです。

逮捕される可能性があるという議論に結び付きうる要素

告訴をしない、と思われるのは権利者にとって不都合であること

権利者は、誤解を恐れず言えば、告訴をすることによって発信者に前科をつけることできる可能性があり、これをカードにして交渉をしています。「どうせ告訴しないだろう」と高をくくられることになると、権利者としてはカードが一つ効かなくなるわけです。
このような事態を防ぐためにも、見せしめ的に告訴を行う必要はあります。

実際に、権利者側法律事務所(ITJ法律事務所)が告訴を行っている旨アナウンスしていること


実際にも、権利者側の法律事務所であるITJ法律事務所では、もちろん実際に告訴をしているからではありますが、告訴を行っている旨をnote上でアナウンスしています。
ITJ法律事務所がこのような情報を開示する背景には、告訴に関する正しい情報を発信することで、示談を検討するにあたりこの情報を参考にしてくださいという意図があるとは思われます。

また、刑事告訴も警察に相談しており、今後随時行っていきます。

ビットトレントで発信者情報開示請求を受けた場合に、弁護士に依頼すべきか|ITJ法律事務所 (note.com)

被害感情が強くてもおかしくはないので、告訴をしてほしいというニーズはあると考えられること

 逆にあなたが違法アップロードをされる立場になったと仮定して、ご自身が時間や労力や才能を費やして作成したコンテンツが、お金を払うことなく、あなたに無断で、P2Pで共有されていたらどんな気持ちになるでしょうか。お金を回収したいということも思うかもしれませんが、ピアと称して繋がっている連中に制裁を加えてほしい、強い姿勢を示してほしい、と思うのは不自然なことではないでしょう。
 実際にも、トレントの被害にあった漫画家ナカシマ723先生のツイート等を拝見すると、どのような感情を持っているのか少しはうかがい知ることができます。
 また、講談社では、以下のような声明を出しています。

講談社は、漫画家や作家の創作努力を踏みにじるような悪質な著作権侵害行為に対して、
今後も刑事告訴、民事提訴等の断固たる姿勢で臨んでまいります。

20190318_kaizokuban.pdf (kodansha.co.jp)

 産業を守るためにも当然の反応であるとはいえるでしょう。

「トレント事件で逮捕される可能性・パーセンテージ」を抽象的に気にし続けるような議論には、限界もあること。

逮捕されるリスクは個々の事例によって異なります。

 

これから述べるとおり、逮捕される可能性は個々の事例によっても異なり得ます。

 仮に「パーセンテージが高い」ということになったとしたら、すぐに示談をした方が良いのではないか、という話には向かいやすくなるでしょう。しかし、可能性が低いという議論があったとして、それはあなたが今回絶対に逮捕されないという保証にはなり得ません。

違法アップロードには罰金・懲役刑が設けられており、読んで字のごとくれっきとした犯罪です。

違法アップロードは著作権法のいうところの「著作権」の「侵害」に該当しますので、罰金・懲役刑が設けられています。この犯罪の捜査のために逮捕される可能性が存在するということです。

ここをクリックすると条文を確認できます。

第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

著作権法

逮捕は証拠隠滅や逃亡の防止のために行われるものであること

逮捕というと、「犯罪者に対するこらしめ」「ペナルティ(罰則)」のようなイメージがいまだにあるかもしれません。(そして、残念ながら、そのように運用されているのではないか、と思わざるをないケースにもしばし直面します。)


そうはいっても、少なくとも理屈上は、逮捕はこらしめやペナルティという位置づけでは刑事訴訟法上ないのです。
逮捕は、刑事訴訟法上に根拠があり、証拠隠滅の恐れや逃亡防止の恐れに対応するための制度となっています。
要するに、捜査が開始していることを知った被疑者は、処罰を逃れるために証拠を隠してしまったり(トレント事件であれば、使用していたパソコンやハードディスクがこれにあたります。)、逃げてしまう可能性があるので、これを防ぐために一番いい方法は、警察署にいてもらうことだ、ということです。

ここをクリックすると条文を確認できます。

(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合に
おいても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、
被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がな
いと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

刑事訴訟規則

逮捕制度の趣旨を踏まえた検討

以上を踏まえると、以下のようなケースでは逮捕リスクが高まる、と論じえます。

  • アップロード数が多い事件。事件が重大であるほど、量刑が重くなるため、逃亡してでも刑を免れたいと思うケースが出てきます。
  • 単身者・無職で容易に逃亡をすることができる(また、家族や職業などへの影響がない。)
  • もちろん、事件化するか否かという次元の話で言えば、被害者が積極的に告訴を行っているどうか。

逮捕される可能性がどうしても気になる場合は直接、私に聞いてください。

弁護士早河弘毅は、丁寧にあなたの疑問にお答えします。トレント案件については、ますます研鑽を積みたいと考えておりますので、ご相談のみでのお問い合わせも歓迎です。感謝と満足のお声をいただいております。あなたもいかがでしょうか。こういうことは早め早めに意見を聞いておいた方がいいですよ。遠慮なくお問い合わせください。

いつでもお待ちしております!

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    この記事を書いた人

    愛知県弁護士会所属弁護士(登録番号は60208)。
    大学入学後半年間の学習で1年生の秋に行政書士合格。
    名古屋大学法科大学院卒。
    弁護士登録後2年10か月で早期独立開業し、令和5年9月1日に「早河弘毅法律事務所」を創設。
    創設後、持ち前の労働事件、刑事事件、インターネット事件の処理を中心に売り上げを堅調に伸ばし、令和6年4月に法人化、「弁護士法人早河弘毅法律事務所」の所長となる。
    1991年12月23日生まれ。
    依頼人に寄り添う弁護士、不安からお守りできる弁護士になりたいと思っているが、それは基礎となる法的素養が盤石であることが前提であって、単なる巧言令色を意味しない。早いレスポンスと丁寧な説明が売り。

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