意見照会書が届いたのでその日からはトレント(torrent)を使っていません!という反論
意見照会書が届いたのでトレント(torrent)はその日から使っていない、という反論について(令和3年(ネ)第10074号、令和2年(ワ)第1573号)
この反論についてご説明します。実際に裁判で主張され、認められている反論です。
意見照会書が届いたら普通はトレントをやめますよね。
AVの制作会社等は、違法アップロードによって売り上げが減少したことを根拠に損害賠償請求をしています。
他方で、トレントの利用者は、多くの場合、意見照会書が届いたらさすがにトレントの利用は中止します。ソフトそのものをアンインストールする人もいます。アンインストールまではしていない、という人もいるかもしれません。けれど、その人たちも、こっそり使っているわけではなく、逆にアンインストールして不都合にならないか、と心配になっているのだと思われます。
私の感触ですと、私のところに相談に来るか他のほとんどは、ソフトを消しています。怖くてソフトを消していないという方もお見えになりますが、トレントは当然起動しておらず、怖くてそのパソコンにもう触れないというくらいです。
トレントを辞めれば、AV等の違法アップロードも止まります。
クライアントソフトを削除したり、クライアントソフトの起動をやめれば、AV等の違法アップロードは当然止まります。知財高裁も令和4年4月20日判決において、以下のとおり認定しています。
一審原告X1らは、別紙損害額一覧表の「終期」欄記載の日をも ってBitTorrentの利用を終了し、それより後は、本件各ファイルにつ き送信可能な状態にしたことはないものと認めるのが相当である
知的財産高等裁判所判決/令和3年(ネ)第10074号
ポイントは、「BitTorrentの利用を終了」の状態にあると裁判所に思ってもらうことができれば、その時点以降は、違法アップロードに加担した賠償の責任を問われない、ということです(少なくとも、知財高裁の令和3年(ネ)第100074号の裁判体はこの日このように判断したということです。)。
損害をゼロにできるという意味ではありませんので念のため。
意見照会書が届いたのでトレント(torrent)はその日から使っていない、という反論は認められた控訴審裁判例があり、主張していくべき
以上みてきたとおり、「意見照会書が届いたのでトレント(torrent)はその日から使っていない」という反論は認められた控訴審裁判例があります。裁判になったら主張していくことになるでしょう。
交渉での出番はあまりないかもしれませんが、大事な話が続くのでまだ読んでいただけると嬉しいです。端的に示談金の相場が知りたい人には以下の記事がお勧めです。
原審(1審)と控訴審で判断が分かれているので注意
「弁護士に相談した時点」が終期であると説明する情報には十分注意しましょう。なぜなら、それは原審(1審)の判断であり、知識を更新できていない可能性があります。
先に要点をざっくり説明すると
東京地裁の令和3年8月27日判決では「弁護士に相談した時点」までが違法アップロードの終期であるとして、遅い時点を採用し、損害を広めに認めていました。
しかし、控訴審である知財高裁は令和4年4月20日判決において、1審の原告の主張を採用し、「意見照会書が届いた日」を終期であるとして、早い時点を採用し、損害を認定する範囲を狭めました。
東京地裁の令和3年8月27日判決(令和2年(ワ)第1573号)
東京地裁は、意見照会書を受領した時点での使用中止を認めませんでした。その後の、「弁護士に相談した時点」まではトレントの利用を中止していなかった。そう考えたのです。
原告らは,プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点で,直感的にBitTorrentの利用を停止した旨主張するが,プロバイダ 各社から意見照会を受けたからといって,直ちにBitTorrentの利用停止という行動に及ぶとは限らず,実際のところ,原告X6は,平成30年10月 19日に受領したものの,少なくとも同年11月頃までBitTorrentソ フトウェアを端末にインストールしていたことがうかがわれ
東京地方裁判所判決/令和2年(ワ)第1573号 令和3年8月27日
これを時系列にすると・・・・・
この時点では「プロバイダ 各社から意見照会を受けたからといって,直ちにBitTorrentの利用停止という行動に及ぶとは限ら」ないので、まだ違法アップロードが続いているというのが原審(1審)の考え方(高裁は、(陳述書なども参考に)この時点でトレントの利用を中止したと判断。)。
弁護士から助言を受けたことにより、この時点でトレントの利用を中止したと考えられる、と原審(1審)は判断した。
いやいや、意見照会書が来たらトレントは辞めるでしょ!という話です。1審(原審)の事実認定は大いに疑問符のつくものでした。
なお、原審(1審)も、トレントの利用を中止すれば違法アップロードは止まる、ということは前提としています。
ウ アップロードの終期
東京地方裁判所判決/令和2年(ワ)第1573号 令和3年8月27日
BitTorrentは,インターネットを通じてデータの授受を行うものであるため,自己の端末がオフライン状態にあるか,通信相手が存在しな い状態であれば,ファイルのアップロードは行われない。また,オンライン状態であっても,ソフトウェアを起動していなければアップロードは行われないほ か,BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアップロードされることはない
知財高裁の令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号)
控訴審は、意見照会書が届いた日をアップロードの終期として認めました(※詳しくは後日補充します。)
AV等違法アップロードのトレント(torrent)事件は弁護士早河にご相談ください。
いかがでしたでしょうか。基本的に、訴訟まで行けば高額な請求が飛んでくることが予想されるので、訴訟リスクを考えると交渉で落としたいところです。もっとも、訴えを起こされてしまったら、控訴審の判示を踏まえ、このような主張をしていくこともマストになるでしょう。
意見照会書を受領してすぐご相談にお越しいただいた方が安全です。是非お問い合わせください。