作 成 : 愛知県弁護士会所属弁護士 早河弘毅

開示請求に「同意しない」選択について。意見照会書の回答書はどう書くべき?プロバイダが守ってくれる?請求棄却の見込みも解説【トレントtorrent】

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BitTorrent(ビットトレント)事件でも、発信者情報開示請求にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」と書いて開示を拒否することができます

弁護士早河弘毅

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書は、開示に同意するか、同意しないかということの回答ですので、身に覚えがある場合でも「同意しない」と回答すること自体に問題はありません。ただ、虚偽の記載は絶対に行わないようにしてください

 この記事をお読みになっている方の中には、既に発信者情報開示にかかる意見照会書が届いている方もお見えになるかもしれません。
 発信者情報開示にかかる意見照会書は、誹謗中傷事件でも発信者に送られることがあるもので、BitTorrent(ビットトレント)事件に特有の書面というわけではありません。

発信者情報開示にかかる意見照会書とは

 発信者情報開示にかかる意見照会書とは、簡単に言えば、プロバイダがあなたに送っている質問状です。発信者情報開示にかかる意見照会書には、「あなた(契約者)の情報を、権利会社に開示してもいいですか」と書いてあります。

プロバイダが発信者情報開示にかかる意見照会書を送ってきている理由

 発信者情報開示にかかる意見照会書の送付に先立って、プロバイダはAVメーカー等の権利会社から、発信者情報開示命令の申立を受けています(最近は、既に申し立てているケースが多いです。)。
 プロバイダは、契約者の同意があれば、契約者の情報をAVメーカー等の権利会社に、契約者の個人情報を開示します。
 それで、契約者が同意できるかどうかを確認するために発信者情報開示にかかる意見照会書を送ってきているわけです。

BitTorrent(ビットトレント)事件における、発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書について簡単に解説。「同意しない」の欄あり。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書とは?

 発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書とは、発信者情報開示にかかる意見照会書に回答するための紙です。この回答書は、発信者情報開示にかかる意見照会書に付属しているので、自分で一から作成する必要はなく、付属している回答書を利用して返送することも可能です。
 基本的に、プロバイダは、いわゆるテレサと言われる書式を参考にこの発信者情報開示にかかる意見照会書を作成しているので、この書類はプロバイダ各社で違いはほとんどありません。
 ①表紙(1枚)②IPアドレスおよびタイムスタンプなどの情報が記載された表のページ(1枚)③回答書(1枚)の構成になっているので、3枚目だけを利用してプロバイダに返送することができます。

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回答書を自分で送るときは、記入した③もコピーをして保管しておきましょう。書き損じることもあるでしょうから、記入する前に③をコピーしておくと安心です。コピーに書いて送っても何ら問題ありません。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書を「同意しない」で送り返す方法

 「同意しない」の欄に〇をつけて記載をすることで、発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書としては「同意しない」扱いになります。
 「同意しない」の場合は「理由」を書く欄がありますので、ここにきちんと理由を書きます。欄が小さいですが、「回答書別紙に記載」とここに記入したうえで、回答書別紙をつけ足して、大々的に主張していく方法もあります。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」証拠を添付する場合

 発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書の下部には、証拠がある場合には添付してほしいという記載があると思います。
 この証拠のマスキングについても案内書きがあると思いますが、この点は後述します。
 

BitTorrent(ビットトレント)事件でも、発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」と書けば、プロバイダの弁護士が対応してくれる

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不開示になるとは限りませんが、プロバイダは契約者のために反論を行ってくれます。どのような反論を行ったかは、裁判例において被告の主張として確認が可能です。当たり前ですが、あなたが契約しているプロバイダによって、担当する法律事務所や弁護士が違います。

BitTorrent(ビットトレント)事件でも、「同意しない」回答をした場合は、プロバイダの弁護士が対応してくれる

 プロバイダの弁護士は、調査結果の信用性が低いとか、著作権法上の要件を満たさないなどと主張して、発信者情報開示請求に対して反論を行ってくれます。
 この主張が奏功するか否かは、後述する通り、AVメーカー等の権利会社側の代理人が提出している証拠を作成した調査会社の調査手法に大きく影響を受けます。
 最高裁判所の裁判例検索から、プロバイダの弁護士の反論を確認することも可能です。

裁判例検索 | 裁判所 – Courts in Japan

 なお、案件数そのものが少ないためでもありますが、地方のプロバイダになると、この検索の限度では棄却のケースが出てこないプロバイダもあります。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意する」と書いた場合は

 正確には、発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書を送ってきている時点で、すでにプロバイダの弁護士は対応をしています。同意の回答があれば、そこで開示を行うということです。
 当の契約者が、氏名や住所を秘匿する利益を放棄しているので、プロバイダとしても開示することができます。

BitTorrent(ビットトレント)事件において、「同意しない」と書いて発信者情報開示請求に対し棄却判決が出るメリット

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棄却なら話はそこで終わりです。示談をする必要も基本的にありません。

 BitTorrent(ビットトレント)事件において、AVメーカー等の権利会社と示談をする必要があるのは、①民事上の責任②刑事上の責任を回避する必要があるからです(もちろん、AVメーカー等の権利会社さんの作品を無断でアップロードして、迷惑をかけたからでもあります。)
 発信者情報開示請求が棄却された場合、あなたの氏名や住所は、AVメーカー等の権利会社には渡らず、あなたに対して請求を行うことができません。AVメーカー等の権利会社は、ツールを使うことによって、あなたが違法アップロードをした(とツールが言っているところの)IPアドレスとタイムスタンプ(とあとはポート番号等)が分かっています。
 しかし、これらの情報のみでは、いわゆるwhois検索をかけても、住所や氏名がわかるわけではありません(プロバイダとローカルホスト等は、わかります。)
 棄却判決を得た場合は、金銭的な負担を大きく免れることができると言ってよいでしょう。(ただし、基本的には開示されると思ってください。)

「同意しない」場合の発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書の書き方

発信者情報開示請求における「同意しない」回答書の位置づけ

 発信者情報開示請求における「同意しない」回答書の位置づけについてご説明します。プロバイダは、発信者情報開示請求事件においては、被告(相手方)であり、当事者となりますが、実際のところ、契約者の利用状況を逐一監視しているわけではありません。
 あなたにとって身に覚えがないことでも、プロバイダには、何一つ分かりません。そこで、プロバイダとしては一般論的な反論を行うのが限界です。また、プロバイダの弁護士がどのような先生であるのかについて、こういった事件になったからと言って直接会いに行くこともないのですから、分からないということもあるでしょう。
 そこで、プロバイダとしては、あなたの個別事情をもとに反論するのであれば、これをあなたに教えてもらうしかないのです。

「同意しない」法的な根拠を提示する

「同意しない」法的な根拠を提示する必要性について

 発信者情報開示請求に対する反論で用いるものですので、この請求が認められないという根拠を示さなければなりません。
 裁判所は、法律の要件を満たしていれば開示せよとの判決をしますし、満たしていなければ棄却します。
 そこで、法律の要件に沿った主張を行わなければならないのです。

「納得がいかない」「身に覚えがない」と書きたくなる気持ちは分かりますが、感情論をそのまま伝えるだけでは、プロバイダとしても戦えません。

「同意しない」理由として著作権侵害を争う

 著作権法の規定に沿って、著作権侵害が存在しないことを主張することが考えられます。この主張は、プロバイダ責任制限法の要件である権利侵害の明白性を否定する主張として位置づけられます。
 この、著作権侵害がないことを認定した裁判例として、本記事作成日と近時の裁判例で申しますと、令和5年(ワ)第70029号発信者情報開示請求事件があります(後述する事情から、あくまでご参考にご紹介します。)。
 この裁判例は、原告の提出した調査会社(株式会社HDR)の調査を前提としても、著作権法上の送信可能化権の侵害はなく、権利侵害の明白性は認められないこと等を認定し、請求を棄却しています。プロバイダ責任制限法上の「当該権利の侵害に係る発信者情報」の該当性も争われていました。

弁護士早河弘毅

もっとも、この裁判例は令和6年5月に控訴審の判決により覆っています。したがって、今やるのであれば、この原審(1審)の判決と控訴審判決をも踏まえて、相手の調査結果も加味して、法律上の主張を組立てます。知識を絶えずアップデートしていかなければ、適切な対応は難しいでしょう。

「同意しない」理由としての調査会社の調査結果の信ぴょう性

 AVメーカー等の権利会社が依頼している法律事務所ごとに、利用している調査会社や調査方法が違います。調査会社の独自のクライアントファイルを利用している場合には、それが正しいものであるのかは、裁判所をはじめとした第三者にはわからないので、丁寧な説明が必要になります。そうすると、その説明に対して反論するという局面も生まれるケースもあります。P2Pファインダーを使っていることもあります。トレントのクライアントファイルを使って弁護士が自力で検証していることもあります。
 IPアドレスの取得の正確性については、IPアドレスの取得の正確性が誤っていると「人違い」になりますので、この点が動揺することになると、調査結果の信頼性に対する影響も大きいと言えます。
 ようするに、甲号証に記載されているIPアドレス・タイムスタンプと、目録に記載されているIPアドレス・タイムスタンプを眺めて比べているだけでは、「結果」を見せられているだけに等しいので、申立書に付属している調査結果報告書(調査結果の信用性を基礎づける重要なもので、ここが不足すると棄却されてしまいますので、何枚もついています。)を検証し、「過程」を吟味するやり方で反論する必要があります。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に証拠を出す場合について

 発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に証拠をつける場合についてご案内します。
 発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書の下部に記載がありますが、あなたが提出した証拠はAVメーカー等の権利会社側に開示されます。
 考えてみれば当たり前の話で、これをプロバイダも、契約者から受け取った証拠を使って裁判で戦う必要があるので、裁判所とAVメーカー等の権利会社には提出する必要があるわけです。
 このとき、プロバイダによって、「こちらでマスキングをする」と発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に書いているケースもありますし、他方で、「原則そのまま出すのであなたのほうでマスキングしてください」と書いているプロバイダもあります。
 提出した証拠にあなたの氏名や住所がそのまま記載してありますと、目も当てられません。あなたの情報を開示してよいかどうかを発信者情報開示請求で争っているのに証拠でそれが出てきてしまっているわけです。
 プロバイダだよりにせず、あなた自身でマスキングをして出すとよいでしょう。できれば、PDFにスキャンして取り込んだうえで、黒塗り機能を使って作成したPDFを印刷して提出しましょう

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」回答をするデメリット

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」回答をするデメリットは、BitTorrent(ビットトレント)事件でも誹謗中傷事件と同じ。

 発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」回答をするデメリットとしては、BitTorrent(ビットトレント)事件においても、誹謗中傷事件と同じでありまして、「発信者情報開示請求に係る弁護士費用の上乗せリスク」になります。

発信者情報開示請求に係る弁護士費用の上乗せリスクとは?

 発信者情報開示請求にかかった費用については、この手続きを利用せざるを得なかったという理由で、AVメーカー等の権利会社は、損害額に上乗せすることができる、という議論が存在します。
 実際、訴訟に移行した場合には、AVメーカー等の権利会社側の弁護士なら、忘れずに加えておくべき損害項目になりますので、注意は必要です。
 ただ、この点があるからと言って示談の解決水準が直ちに上がってしまうというわけではありません。示談の水準は、AVメーカー等の権利会社側の弁護士が、交渉のために設定していますので、これが加算されるとは限りません。
 この点は、お電話でお話しいただければ、経験を踏まえてアドバイスさせていただきます。

弁護士早河弘毅

とはいえ、発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書において、無視や不同意が多くなってきたら対応を変えるということは大いに考えられると思います。日ごろからトレント事件を扱っていて、動向が分かっている弁護士のほうが良いと思います。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」回答をすると、開示された場合の和解に影響するか?という問題

 名誉棄損を理由とした発信者情報開示にかかる意見照会書の場合には、発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書に「同意しない」(拒否・不同意)と書いて出すことで、示談が成立しにくくなる、という議論があります。
 名誉棄損の被害者である個人からすると、「不同意にしたということは、言い逃れをしようとした」「許せない」と考え、その後感情が悪化する、ということが理由のようです。
 まず、少なくとも、BitTorrent(ビットトレント)事件における、AVメーカー等の権利会社側は、現状では、「同意しない」回答をしたからといって、開示された場合の和解において強硬な対応をとっているようには、必ずしも見えません。あくまで私の目から見える限度ですが、そのような印象はあります。
 この点は、必ずしも、名誉棄損の場合と同じには現状論じられない印象です。同じようなデメリットがあるとは、私は考えていません。詳しくは、ご相談いただければお伝えいたします。

発信者情報開示にかかる意見照会書の回答書について、ぜひ弁護士 早河弘毅にぜひご相談ください

 本記事はいかがでしたでしょうか。回答書は、プロバイダが適切に反論をするために必要になるということがお判りいただけたかと思います。法的観点と技術的観点の双方を踏まえ、何よりも個別事情を大切にして作成することが重要になってきます。
 弁護士早河弘毅は、回答書の作成のみのご依頼も承っております。ご不明な点がございましたら遠慮なくお問い合わせください。直接のお電話でも歓迎いたします。

気を抜かずに行きましょう。気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人

愛知県弁護士会所属弁護士(登録番号は60208)。
大学入学後半年間の学習で1年生の秋に行政書士合格。
名古屋大学法科大学院卒。
弁護士登録後2年10か月で早期独立開業し、令和5年9月1日に「早河弘毅法律事務所」を創設。
創設後、持ち前の労働事件、刑事事件、インターネット事件の処理を中心に売り上げを堅調に伸ばし、令和6年4月に法人化、「弁護士法人早河弘毅法律事務所」の所長となる。
1991年12月23日生まれ。
依頼人に寄り添う弁護士、不安からお守りできる弁護士になりたいと思っているが、それは基礎となる法的素養が盤石であることが前提であって、単なる巧言令色を意味しない。早いレスポンスと丁寧な説明が売り。

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