作 成 : 愛知県弁護士会所属弁護士 早河弘毅

損害額に反論!「AVをトレントで違法ダウンロードする人はトレントがなくても購入者にはならない」と主張できるか?

目次

どういう反論なのか?その反論で損害額が減るのか?

早河弘毅

先に申し上げると、この反論は令和3年8月27日の東京地裁判決では認められませんでした。

無料で違法ダウンロードする層は、有料で購入する顧客にはなり得ないのではないか

 この記事を読んでくださっている方の中には、既に違法アップロードを理由としてプロバイダから意見照会書が届いている方も少なからずお見えになるのではないかと存じます。
 そこで、私からあなたに問います。あなたは、違法ダウンロードして手に入れたAVについて(AVでなくても同じですが)これをお金を払ってでも手に入れたいと思うでしょうか。
 お金を払って、ダウンロードサイト(DMMさんが運営するサイトなどです。)で購入したいと思うでしょうか。
 おそらく、ほとんどの方が「そうではない」と答えることでしょう。
 私が実際に相談をお受けしている感触で申し上げても、トレントを利用している方のほとんどは「ゲーム感覚」や「暇つぶし」で、お金を払ってでもAVが欲しいという方はあまりいないように思います。

私が相談をお受けしている感触ですと、ゲーム感覚、という言葉がぴったりです。

損害額が減る!という理屈について

 AVの制作会社等は、著作権侵害を理由に損害賠償請求をしています。
 平たく言えば、「あなたが違法アップロードしたせいで、買ってくれたはずのお客さんが、無料で買って済ませてしまった。」ということです。
 「本当ならうちにお金が入るはずだったのに!」ということです。
 これに対して、「いいや、違法アップロードをする層の人たちは買い手にはならないと思いますよ。」「買う層と違法アップロードをする層は別の人たちですよ。」「後者の人たちがいても、前者にもたらす影響はないか、あっても限定的なものでしょう。」「そうすると、違法アップロードによって売り上げが減っているということはないのでは」「違法アップロード数をそのまま請求するのは行き過ぎている」というような反論です。

盗人猛々しいとはまさにこのことです。しかし、これだけ聞いていると、そのように言えなくもないように聞こえますね。

トレントでAVを入手する人は、買い手にはならない、という反論に裁判所はどう言っているのか?

早河弘毅

令和3年8月27日の裁判例では、裁判所は特に理由を述べずにこの主張を退けていますし、原告側も、この主張にウェイトを置いていたようには一見して見えません。

原告の主張

 この裁判において、原告は「相当因果関係の範囲」を争うため、以下のように主張しています。

イ BitTorrentを利用して本件著作物をダウンロードした者の中には,有料であればダウンロードしなかったものが相当数含まれているはずで あり,ダウンロードの回数分だけ被告の販売機会が失われる関係にはない以上, 因果関係を欠く。
ウ BitTorrentを通じたダウンロードと被告からの購入とで は,その需要者の範囲,流通網及び販売方法が全く異なる。すなわち,BitT orrentのユーザーは,アダルト動画の愛好者にとどまらないから,興味本位で本件著作物の動画ファイルをダウンロードしたにすぎない者も少なくないの に対し,本件著作物はその内容に照らし,需要者の範囲は限定されている上に, 販売形態もアダルト作品の販売店や販売サイトに限られている。
そうすると,BitTorrentで本件著作物の動画ファイルが流通したからといって,直ちに本件著作物に係る被告の売上げが下がる関係にはない。

東京地判令和3年8月27日LLI/DB 判例秘書登載。令和2年(ワ)第1573号

 この記事の冒頭でのべたものとニュアンス的には同じといってよいでしょう。「買う層」と「落とす層」は違うのだと言っているわけですね。

裁判所の判断

 これに対し、裁判所は、とるに足らない主張である、と考えていると思われます。特に理由を述べないまま、簡単にこの主張を退けています。

ウ 本件各ファイルをダウンロードしたユーザーの中には有料であれば本件著作物を購入しなかったものも存在するという原告らの指摘や,BitTor rentのユーザーと本件著作物の需要者等が異なるという原告らの指摘も,前記認定を左右するものということはできない。

東京地判令和3年8月27日LLI/DB 判例秘書登載。令和2年(ワ)第1573号

 本当にこの部分だけです。原告の主張はこれだけで退けています。想像ですが、おそらく期日間のやりとりでは、事実上争点からも落ちていたくらいではないのでしょうか。
 素朴な感情からすれば、それなりに理由のある反論のようにも感じますが、少なくとも、現状、法的には、裁判所サイドからはあまりインパクトのない主張であると考えられていると言っても過言ではないかもしれません。

このような主張をしてほしい、と要望されることは少ないですが

 以上、実際に裁判で行われたことのある主張を題材に、コラムを執筆させていただきました。
 もっとも、私のもとにお越しになる相談者様は、ほとんどが、「違法アップロードをしてしまったことは申し訳ない」「お世話になって、使わせてもらったから仕方ない支払います。」というスタンスです。「違法アップロードをする層と購入する層は違うから反論してほしい」と実際に言われたことはありません。
 とはいえ、実際に示談金を支払う立場からすれば、気になるポイントになるかもしれない点ですので、開設させていただきました。
 なお、AV以外のコンテンツのアップロードでも逮捕事案があることについて、以下の記事で触れていますので、よろしければご参考にしてください。

AVの損害額を争うべきケースもあります。弁護士早河弘毅に一度ご相談ください

 AVの損害額については、他にも争点があります。高額な訴訟におびえるだけではなく、一度専門家の意見も利用してみませんか。
 私はトレント事件に注力している弁護士であり、相談をお受けすることを楽しみにしています。気軽にお問い合わせください。

お問い合わせをいただけると嬉しいですね。引き続きお待ちしております。
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この記事を書いた人

愛知県弁護士会所属弁護士(登録番号は60208)。
大学入学後半年間の学習で1年生の秋に行政書士合格。
愛知大学法学部卒。名古屋大学法科大学院卒。
弁護士登録後2年10か月で早期独立開業し、令和5年9月1日に「早河弘毅法律事務所」を創設。
創設後、持ち前の労働事件、刑事事件、インターネット事件の処理を中心に売り上げを堅調に伸ばし、令和6年4月に法人化、「弁護士法人早河弘毅法律事務所」の所長となる。
1991年12月23日生まれ。
依頼人に寄り添う弁護士、不安からお守りできる弁護士になりたいと思っているが、それは基礎となる法的素養が盤石であることが前提であって、単なる巧言令色を意味しない。早いレスポンスと丁寧な説明が売り。

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